7.動的問題の解析法


7-1 動的問題の定式化

 1自由度系の運動方程式
\[{\rm (7.1)}   m \ddot{u} + c \dot{u} + ku = f(t) \]
と表すことができる。ここで、$m$ は質量、$c$ は減衰係数、$k$ は剛性である。式(7.1)は変位自由度の方向に働く力 $f(t)$ と慣性力 $(m \ddot{u})$、減衰 $(c\dot{u})$、 弾性力 $(ku)$ の力の釣り合いを表した式である。この運動方程式は、このような力の釣り合い以外にも、仮想仕事やHamiltonの原理の応用によっても誘導することができる。ここでは、増分仮想仕事式を用いて、川井モデルの動的問題に対する定式化を行ってみよう。
1章で説明した関係を用いれば、3次元剛体内の任意点における変位ベクトル $\boldsymbol{U}_i$ は重心の剛体変位 $\boldsymbol{u}_i$ を用いて
\[{\rm (7.2)}   \boldsymbol{U}_{i}=\boldsymbol{Q}_{i} \cdot \boldsymbol{u}_{i} \]
と表すことができた。加速度に対しても、同じ係数行列 $\boldsymbol{Q}_i$ を用いて
\[{\rm (7.3)}   \ddot{\boldsymbol{U}}_{i}=\boldsymbol{Q}_{i} \cdot \ddot{\boldsymbol{u}}_{i} \]
と表す。ここで、
\[\hspace{4em} \ddot{\boldsymbol{U}}_{i} = ( \ddot{U}_{i} \;\; \ddot{V}_{i} \;\; \ddot{W}_{i} )^{t} \;, \;\;\;\; \ddot{\boldsymbol{u}}_{i} = ( \ddot{u}_{i} \;\; \ddot{v}_{i} \;\; \ddot{w}_{i} \;\; \ddot{ \theta }_{i} \;\; \ddot{ \phi }_{i} \;\; \ddot{ \chi }_{i} )^{t} \]
であり、下付きの添字は要素番号を表すものとする。これを増分形式で表せば
\[{\rm (7.4)}   \Delta \ddot{\boldsymbol{U}}_i = \boldsymbol{Q}_i \cdot \Delta \ddot{\boldsymbol{u}}_i \]
となる。一方、1章で示した相対変位を増分形式で書き直せば1章の係数行列をそのまま用いて、
\[{\rm (7.5)}   \Delta \boldsymbol{\delta} = \sum_{i=1}^{2}\boldsymbol{B}_{i} \Delta \boldsymbol{u}_{i} \;\;\;\; (\boldsymbol{B}_{i} = \boldsymbol{M}_{i} \cdot \boldsymbol{R} \cdot \boldsymbol{Q}_{i}) \]
となる。
 いま、要素境界辺の増分表面力を $\Delta \boldsymbol{\sigma}$、増分物体力を $\Delta \boldsymbol{f}$ とし、増分仮想相対変位を $\Delta \boldsymbol{\delta}^*$、増分仮想剛体変位を $\Delta \boldsymbol{u}_i^*$ とすれば、動的問題に対する増分仮想仕事式は以下のように表される。
\[{\rm (7.6)}   \frac{ \gamma }{ g } \int_{v} \{ ( \Delta \boldsymbol{u}_{i}^{*} ) ^{t} \cdot \Delta \ddot{\boldsymbol{u}}_{i} \} dv + \int_{s} \{ ( \Delta \boldsymbol{\delta}^{*} )^{t} \cdot \Delta \boldsymbol{\sigma} \} ds = \int_{v} \{ ( \Delta \boldsymbol{u}_{i}^{*} )^{t} \cdot \Delta\boldsymbol{F} \} dv \]
ここで、$\gamma$ は単位体積重量、$g$ は重力加速度である。式(7.6)式(7.4)、式(7.5)の関係を用い、$\Delta \boldsymbol{u}_i^*$ および、$\Delta \boldsymbol{\delta}^*$ が任意であることを考慮すれば、最終的に解くべき方程式が以下のように求められる。
\[{\rm (7.7)}   \boldsymbol{M} \cdot \Delta \ddot{\boldsymbol{u}} + \boldsymbol{K} \cdot \Delta \boldsymbol{u} = \Delta \boldsymbol{F} \]
ここで、$\boldsymbol{M}$は質量行列、$\boldsymbol{K}$は剛性行列、$\boldsymbol{F}$ は荷重項である。
 質量行列 $\boldsymbol{M}$ は
\[{\rm (7.8)}   \boldsymbol{M} = \int_{v} \{ ( \boldsymbol{Q}_i )^{t} \cdot \boldsymbol{Q}_i \} dv \]
である。川井モデルの場合、要素重心にパラメーターがあるため、この質量行列は要素単位に作成することができる。また、ばね質点系と同様、重ね合わせの必要もない。各要素モデルに対する質量行列の詳細については、9章にまとめておく。
 また、剛性行列$\boldsymbol{K}$は
\[{\rm (7.9)}   \boldsymbol{K} = \int_{s} ( \boldsymbol{B}^{t} \cdot \boldsymbol{D} \cdot \boldsymbol{B}) ds \]
であり、1章で示した剛性行列と同じである。この剛性行列はばね毎に作成され、その詳細は9章に示す通りである。
 一方、外力項における物体力は
\[{\rm (7.10)}   \Delta \boldsymbol{F}_{f} = \int_{v} ( \boldsymbol{Q}_{i} \cdot \Delta \boldsymbol{f}_{i} ) dv \]
であり、パラメーターを要素重心に設定すれば、モーメントの項は0となる。例えば、3次元要素の場合の物体力は
\[\hspace{4em} \Delta \boldsymbol{F}_{f} = V( \Delta f_{x} \;, \;\; \Delta f_{y} \;, \;\; \Delta f_{z} \;, \;\; 0 \;, \;\; 0 \;, \;\; 0 )^{t} \]
となる。ここで、$V$ は要素の体積であり、$\Delta f_x、\Delta f_y、\Delta f_z$ は各方向の増分物体力の成分を表している。外力として、要素重心に作用する増分力 $\Delta \boldsymbol{F}_p$ を考えた場合、例えば3次元では
\[{\rm (7.11)}   \Delta \boldsymbol{F}_{p} = ( \Delta X \;, \;\; \Delta Y \;, \;\; \Delta Z \;, \;\; \Delta L \;, \;\; \Delta M \;, \;\; \Delta N )^{t} \]
となる。また、地震などにおける加速度入力があった場合には、要素重心における増分の地震加速度を $\Delta \boldsymbol{u}_{ig}$として
\[{\rm (7.12)}   \Delta \boldsymbol{u}_{i}^{*} \cdot \Delta \boldsymbol{F}_{m} = - \frac{ \gamma }{g} \int_{v} \{ (\Delta \boldsymbol{u}_i^* )^t \cdot \Delta \ddot{\boldsymbol{u}}_{ig} \} dv \]
といった仮想仕事式を、式(7.6)の右辺に追加する。この結果、
\[{\rm (7.13)}   \Delta \boldsymbol{F}_{m} = - \frac{ \gamma }{g} \int_{v} \{ ( \boldsymbol{Q}_{i} )^{t} \cdot \Delta \ddot{\boldsymbol{u}}_{ig}\} dv \]
が得られる。この荷重もまた、要素単位で作成することができ、3次元の場合、
\[{\rm (7.14)}   \Delta \boldsymbol{F}_{m} = - \frac{ \gamma }{g}V( \Delta \ddot{u}_{ig} \;, \;\; \Delta \ddot{v}_{ig} \;, \;\; \Delta \ddot{w}_{ig} \;, \;\; 0 \;, \;\; 0 \;, \;\; 0 )^{t} \]
である。
 したがって、式(7.7)
\[{\rm (7.15)}   \boldsymbol{M} \cdot \Delta \ddot{\boldsymbol{u}} + \boldsymbol{K} \cdot \Delta \boldsymbol{u} = \Delta \boldsymbol{F}_{f} + \Delta \boldsymbol{F}_{p} + \Delta \boldsymbol{F}_{m} \]
となる。
 次に減衰について考えてみよう。減衰行列にもいろいろな方法が考えられるが、ここではレイリー減衰について説明する。レイリー減衰では減衰行列 $\boldsymbol{C}$ を質量行列 $\boldsymbol{M}$ と剛性行列 $\boldsymbol{K}$ の線形和として
\[{\rm (7.16)}   \boldsymbol{C} = \alpha_{0} \boldsymbol{M} + \alpha_{1}\boldsymbol{ K} \]
のよう仮定する。ここで、係数 $\alpha_0$、$\alpha_1$ の値は全体系の1次、2次の固有円振動数 $\omega_1$、$\omega_2$ より
\[{\rm (7.17)}   \alpha_{0} = 2 \omega_{1} \omega_{2} \frac{ h_{2} \omega_{2} - h_{1} \omega_{1}} { \omega_{2}^{2} - \omega_{1}^{2} } \;, \;\;\; \alpha_{1} = 2 \frac{ h_{2} \omega_{2} - h_{1} \omega_{1}} { \omega_{2}^{2} - \omega_{1}^{2} } \]
と求める。上式において、$h_1、h_2$ は1次および2次の減衰係数である。以上の減衰効果を含めれば最終的に解くべき運動方程式は
\[{\rm (7.18)}   \boldsymbol{M} \cdot \Delta \boldsymbol{\ddot{u}} + \boldsymbol{C} \cdot \Delta \boldsymbol{\dot{u}} + \boldsymbol{K} \cdot \Delta \boldsymbol{u} = \Delta \boldsymbol{F} \] \[\hspace{6em} ( \Delta \boldsymbol{F} = \Delta \boldsymbol{F}_{f} + \Delta \boldsymbol{F}_{p} + \Delta \boldsymbol{F}_{m}) \]
となる。

7-2 運動方程式の数値計算法

 運動方程式の解析法としては直接積分法がよく利用されている。この直接積分法は数値的なステップ・バイ・ステップの手法が用いられており、中央差分Newmark のβ法Wilsonのθ法Houbolt 法など、いくつかの方法が提案されている。ステップ・バイ・ステップ的な計算では当然、最も危険な状態や最終的な状態をいきなり解析することはてきず、計算時間も長くなる傾向がある。本来、構造物の最終強度を解析するといった川井モデルの特徴からすると、このことは、甚だ不都合なことであるが、川井モデルにおける動的解析においても、現状では有限要素法と同様、直接積分法などのステップ・バイ・ステップの手法を使用せざるを得ない。
 前節において、運動中の系に対する平衡方程式
\[{\rm (7.19)}   \boldsymbol{M} \cdot \ddot{\boldsymbol{u}} + \boldsymbol{C} \cdot \dot{\boldsymbol{u}} + \boldsymbol{K} \cdot \boldsymbol{u} = \boldsymbol{F} \]
を導いた。おのおのの係数行列は有限要素法などの場合と異なっているものの、数値積分の立場から考えると、アルゴリズム的に有限要素法などの数値解析法と同様に扱うことができる。ここでは、このような理由により、代表的な直接積分法であるNewmark のβ法による計算法についてのみ説明する。
 一般にNewmarkのβ法の公式は以下のように書くことができる。
\[{\rm (7.20)}   \left. \begin{array}{rcl} \dot{u}_{i+1} & = & \dot{u}_{i} + \frac{1}{2}( \ddot{u}_i + \ddot{u}_{i+1} ) \Delta t \\[0.5em] u_{i+1} & = & u_{i} + \dot{u}_{i} \Delta t + \frac{1}{2} \ddot{u}_{i} \Delta t^{2} + \beta ( \ddot{u}_{i+1} - \ddot{u}_{i} ) \Delta t^{2} \end{array} \right\} \]
ここで、$\Delta t$ は増分時間で、下付きの添字は時間ステップを表し、$(i)$ が現在の時間 $t$、$(i+1)$ が現在の時間から $\Delta t$ 後の値であることを意味している。$\beta$ は陰陽の程度を調整するパラメーターで、$\beta = 0$ のとき陽公式、となり、$\beta = 1/2$ のとき陰公式となる。また、$\beta=1/6$ のとき線形加速度法と一致し、Taylor展開の3次項までを考慮したことになる。$\beta=1/4$ とした場合は平均加速度法と呼ばれている。
 次に、このβ法を用いた計算アルゴリズムについて説明しよう。解析法としては、変位増分を求めた後、速度増分、加速度増分を求める方法と、加速度増分を求めた後、変位増分と速度増分を求める2つの方法が考えられる。まず、変位増分を求める方法から説明しよう。
 弾性計算の場合、質量行列 $\boldsymbol{M}$、剛性行列 $\boldsymbol{K}$、減衰行列 $\boldsymbol{C}$ は時間ステップ毎に変化しないため、(3)~(6)までを所定の回数だけ繰り返す。一方、非線形計算では剛性行列 $\boldsymbol{K}$や減衰行列 $\boldsymbol{C}$ が変わるため、(2)~(6)までを繰り返すことになる。
 次に、加速度増分を初めに求める方について説明しよう。
 先の場合と同様、弾性計算においては(3)~(6)を、また、弾塑性計算においては(2)~(6)を所定の回数だけ繰り返す。
 以上、Newmark のβ法について説明を行ったが、有限要素法などの従来の計算法と何ら相違がないことに気づかれたであろう。初めにも述べたように、他の直接積分法もこのNewmarkのβ法と同様、アルゴリズム的には有限要素法と同じである。

7-3 簡単な斜面安定解析法

 斜面安定問題の解析例を示す前に、簡単なモデルにより固有値解析を行った結果を示そう。モデルとして、無限に広がる水平地盤が一様なせん断固有振動をする場合を取り上げた。このような場合、単位幅の地盤を取り出して解析することができ、せん断型連続体振動論により理論解が求まってる。ここでは、川井モデルによる解とこの理論解ならびに有限要素法による解を比較してみる。解析に用いたモデルおよび要素分割パターンが図7.1に示されている。境界条件としては、下端を固定、両側面を水平ローラーとしている。

$\hspace{0em}$(a) 解析モデル $\hspace{1em}$(b) ケース1 $\hspace{1em}$(c) ケース2 $\hspace{1em}$(d) ケース3
$\hspace{6em}$図7.1 解析モデルと要素分割
表7.1は要素分割の相違による固有周期をまとめた表である。この表より、1次、2次とも要素数の増加に伴い精度が上昇しているが、理論解よりやや小さ目の値となっていることがわかる。有限要素法に比べると若干精度が低い傾向がある。
表7.1 固有周期の比較
次数 理論解 本モデル 有限要素法
(8要素) (16要素) (32要素) (8要素) (16要素) (32要素)
1次 0.81 0.76 0.79 0.79 0.81 0.81 0.81
2次 0.27 0.22 0.25 0.26 0.29 0.28 0.27
図7.2には振動モードが示されている。図より、理論解より求まる1次および2次の正弦波形モードが得られていることがわかる。

$\hspace{0em}$(a) 1次モード $\hspace{2em}$(b) 2次モード
$\hspace{0em}$図7.2 1次モードと2次モード
 このように、川井モデルによる解は工学的にほぼ満足のゆく固有周期が得られており、地震応答解析に利用することも可能である。そこで、次にフィルダムの地震時安定解析を行ってみよう。フィルダムは自然の土砂で構築されるため、強度の評価が比較的明確なコンクリートダムと異なり耐震設計に対して合理的な設計が必要とされる。従来、このような問題に対して、円弧すべり法による解析が広く利用されてきた。また、有限要素法による解析も数多く試みられている。
 この種の問題において、従来法における安全率と比較するためには5章で示したような安全率を定義しなければならない。ここでは、すべり面上の安全率を要素境界辺上の表面力から求める方法を利用した。
 静的結果と動的結果を比較するため静的な弾塑性計算により常時の結果を求め、その値を初期値として弾塑性応答解析を行い地震時の安全率を算出した。また、従来法との比較のため、地震時の円弧すべり解析において水平震度を0.1と0.3とし、これに対応する入力地震波の最大加速度を100galと300galに設定、基盤より水平加振を行った。減衰効果としてレイリー減衰を採用し、係数 $\alpha_0$、$\alpha_1$ の値は1次、2次の減衰定数を $h_1=h_2=0.1$ と仮定して求めた。増分時間は $\Delta t=0.005$秒とし、Newmarkのβ法において $\beta=1/4$ とした。降伏条件にはモール・クーロンの条件を用いている。
 以上の前提のもと、図7.3に示すようなモデルを設定する。要素分割は図に示す通りで、比較的粗い要素分割を用いている。境界条件として、フィルダム底面を固定としている。

$\hspace{5em}$図7.3 フィルダムの解析モデル
解析に使用した材料定数は以下の通りである。ただし、ここでは中央コア部の材料定数をフィル部と同じ値に仮定した。
材料定数
材料定数 単位
弾性係数 $E$ ${\rm tf/m^2}$ $47100$
ポアソン比 $\nu$ $0.45$
単位体積重量 $\gamma$ ${\rm tf/m^3}$ $2.0$
粘着力 $C$ ${\rm tf/m^2}$ $1.4$
内部摩擦角 $\phi$ ${\rm DEG}$ $37$
図7.4は固有値解析の結果を示した図で、図(a)が1次モード、図(b)が2次モードである。1次の固有周期はT=0.31秒、2次の固有周期はT=0.26秒であった。図より1次のモードではせん断変形が、また、2次のモードでは上下方向のモードが卓越している様子が現れている。

$\hspace{6em}$(a) 1次モード $\hspace{10em}$(b) 2次モード
$\hspace{6em}$図7.4 コア材がない場合の1次モード,2次モード
 次に、図7.5に示すような EL CENTRO波形を基盤に入力し、動的解析を行った結果を示す。この地震波は、図(a)より2秒後に最大加速度319galが生じており、図(b)より卓越周期が0.4秒付近にあることがわかる。

$\hspace{5em}$(a) 入力地震波 $\hspace{8em}$(b) フーリエ振幅スペクトル
$\hspace{8em}$図7.5 入力地震波とフーリエ振幅スペクトル
図7.6に最大加速度を100gal、300galに設定した場合の時刻t=2秒でのすべり先発生状況が示されている。最大加速度が100gal の場合、フィルダム中央部に若干のすべり線が発生しているものの、全体には広がらず斜面崩壊は発生しない。一方、300galの場合は中央部を含め斜面のいたる所ですべりが発生しており、斜面崩壊の危険性を示唆している。

$\hspace{6em}$(a)100gal $\hspace{13em}$(b) 300gal
$\hspace{6em}$図7.6 最大加速度の相違によるすべり線発生状況
図7.7はこのときの応答変位を図示した結果で、300gal を入力した場合、要素間の相対的なずれが大きくなっている。このことを詳細に調べるため、図7.8に要素番号87の地点における絶対加速度、基盤に対する相対速度および相対変位の応答を示す。100gal の場合、応答変位量は最終的にほぼ0に収束しているが、300gal の場合は残留変形が生じている。このことからも、300gal の場合は斜面崩壊の危険性が高いことが理解できる。

$\hspace{6em}$(a)100gal $\hspace{13em}$(b) 300gal
$\hspace{10em}$図7.7 各加速度に対する変位モード

$\hspace{6em}$(a)100gal $\hspace{13em}$(b) 300gal
$\hspace{4em}$図7.8 各加速度に対する絶対加速度,相対速度,相対変位
 この応答解析結果を従来法による円弧すべり解析結果と比較してみよう。図7.9は常時および地震時の円弧すべり面と川井モデルにおける支配的なすべり線を示した図である。常時はLINE1、地震時はLINE2により比較した。ただし、応答解析では最大加速度が作用する2秒後の値を用いている。

$\hspace{6em}$図7.9 静的解析結果
表7.2は各計算ケースにおける安全率をまとめたものである。常時においては、円弧すべり解析による安全率の方が川井モデルによる離散化極限解析結果より低めの値となっているが、地震時では100gal、300galとも川井モデルによる解析結果の方が低い安全率となっている。ただし、応答解析では従来法における震度0.1に対して基盤に100gal を作用させているため、すべりの発生している部分では100gal以上の応答加速度が発生しているものと思われる。このため、単純に従来法の結果と比較することはできない。先の結果はそのような意味で目安程度に考えるべきであろう。
表7.2 安全率一覧表
解析法 常時 地震時
kh=1.0 kh=0.3
円弧すべり 1.79 1.47 1.03
RBSM 2.02 1.40 崩壊

7-4 地盤の地震応答解析

 地盤の地震応答解析例として1984年9月に発生した長野県西部地震による御岳大崩壊のシミュレーション結果を紹介しよう。
図7.10に解析に用いたモデルを示す。図中に示すⅠ、Ⅱの番号は地震により、初めにⅠに示す土塊が崩壊し、引き続きⅡに示す土塊が大崩壊を起こしたという災害調査による推測結果を示している。地質状況は上層約100~150mが凝灰角レキ岩と溶岩が混ざり合った伝上川溶岩類とスコリア層が堆積しており、その下に千本松軽石層が1~2m程度で薄く堆積し、最下層には木曽谷層と呼ばれる火山レキ層が厚く堆積している。今回の崩壊は、薄く堆積している千本松軽石層が地震によりせん断破壊を越して木曽谷層に沿って大崩壊が発生したものと思われる。そこで、本解析では、木曽谷層、千本松軽石層および伝上川溶岩類の3層より地層が構成されているものとし、木曽谷層を基礎と仮定した。

$\hspace{5em}$図7.10 長野県西部地震による御岳山の斜面崩壊断面
 文献によれば、伝上川溶岩類を構成する凝灰角レキ岩は縦波速度が約2.8~3.8km/s程度あり、硬い岩であることがわかる。ところが、地震後の現地調査より崩壊を起こした上端の起点付近には、地表から木曽谷層まで達する亀裂が存在することが確認されている。このことから、伝上川溶岩類を堆積岩程度の強度と仮定、以下のように材料定数を設定した。
材料定数
材料定数 単位
弾性係数 $E$ ${\rm tf/m^2}$ $1.42 \times 10^6$
ポアソン比 $\nu$ $0.25$
単位体積重量 $\gamma$ ${\rm tf/m^3}$ $2.2$
せん断強度 $C$ ${\rm tf/m^2}$ $20$
内部摩擦角 $\phi$ ${\rm DEG}$ $35$
 一方、伝上川付近では過去において幾度となく小規模の崩壊が発生しており、地下水の影響が関与しているものと推測される。本来、この地下水の影響を解析しておく必要があるが、ここでは単純にⅠの部分の千本松軽石層に対して地下水の影響を考慮し、以下のような強度定数を用いた。
便宜上、弾性係数とポアソン比については伝上川溶岩類と同じ値を用いている。
 入力地震波については実際の長野県西部地震の波形が得られていないため、マグニチュード6.9 、震源が深さ約3kmであったということより図7.11に示すようなEl Centro 波を最大加速度200gal に設定し水平加振した。このため、実際の長野県西部地震を再現しているとはいえないが、定性的には利用できる部分もあろう。

$\hspace{4em}$図7.11 入力地震波(El Centro NS成分)
 解析手順として、初めに静的な弾塑性解析を行い初期応力を設定し、引き続き地震応答解析を行う。境界条件は底面を固定とし、端部は初期応力計算では上下方向スライド、応答解析では水平方向自由とした。また、運動方程式の解法としては Newmarkのβ法を利用し、$\beta=1/4$ とした。増分時間は$\Delta t=0.02秒$ としている。
図7.12は解析に用いた要素分割と固有モードが示されている。1次および2次の固有周期は、それぞれ0.30秒、0.24秒であった。

$\hspace{4em}$図7.12 解析モデルと固有モード
図7.13は静的な弾塑性解析による結果で、上段が自重載荷率0.51の場合、下段が1の場合である。静的な解析では縦方向のすべり線が数多く発生しているものの、底面のすべり線がつながっていないため、斜面崩壊には至らない。

$\hspace{4em}$図7.13 初期応力状態でのすべり線発生状況
 一方、図7.14は応答解析の結果で、静的な解析ではつながっていなかった底面のすべり線が成長し、斜面崩壊が発生する危険性を示している。このことを詳細に調べるため、2回目の崩壊に含まれる要素(要素番号239)とその外側の要素(要素番号284)に対する絶対加速度、基盤に対する相対速度、相対変位を縦軸に、また、時間を横軸にとり整理した結果が図7.15 に示してある。この図を眺めると崩壊したと思われる要素239では約2秒後以降、残留変形が生じているのに対し、その外側の要素284ではほとんど残留変形が見られない。このような方法により、動的問題の崩壊機構を推定するのも一つの方法であろう。

$\hspace{2em}$図7.14 応答解析でのすべり線発生状況

$\hspace{4em}$図7.15 絶対加速度、相対速度、相対変位
 以上、長野県西部地震をモデルとした解析例を紹介したが、この解析は単なるモデル解析であり、多くの点で問題を残している。むしろ、この結果から川井モデルによる動的解析の特性や考え方を理解してほしい。